薄羽カゲロウ日記 (神無月三十一日)

h-imagine19722010-10-31

「わが南京虫闘争」とでもいいましようか、原因がはつきりとしない発疹やアレルギーと思われる病気の要因が、ようやく南京虫によるものではないか、とつきとめた。

医学的知識が皆無にも関わらず、何者かの声に導かれるように対処方法ならびにその病名とおぼしきもの、殺菌方法を知り得て、この病気が治癒しましたので、その痒みとの闘争の様子をお伝えしたいと思います。


 始まりは8月初旬から、何とも言えないノミやシラミにかぶられるような痒みから始まつた。15日には内股が赤く腫れ、発疹が出てきて、眼も霞み始めたので、たまらず何処かの市中で買い入れた古本の昭和4年発行の『荷風全集』や『日本名作全集』の2冊を部屋のなかから出し、家の書庫に入れ雑菌駆除を始めました。その後、風呂の入浴方法からあらため、烏の行水を止め、下半身と背中の汚れを念入りにおとすと大量に垢が溜まっており、排水溝が白い垢で詰まるくらいだつた。また、寝間着と普段着を2、3日分溜めていたものを洗濯場に出しました。節水のため1週間間隔で風呂に入っていたことを思い出す。そして、机を動かしてみると自室のシャッターが酷く汚れていた(他人への迷惑を知る)。これだけの要因でアレルギー体質でもないのに発疹ができ熱はないものの汗が大量に出てしまつた。


早速、思い当たる古書店に電話をいれると「書庫で陰干ししていなさい」とのご返事。茫然とあらためて「物にはこころがある」という言葉を思い出した次第である。私は時折重い本を読むと寝込んでしまうのですが、今回は凄かった。遂に埃と私の体臭があいまつて街で買い入れた大切な古本が遂に怒り出してしまつたのだ。


 今回の要因は猛暑と私の無精、本がたまたま昭和ヒトケタと言う要因が重なつたと考えられます。と街の古本屋には難解な専門書がならんでいるが、その中には私と同じ無精者で志半ばで亡くなった方もいる。そのリクス分割引市販価格より安いのだから陰干しを怠つたのは、自己責任というところだろう。


 そのことだけで二週間元気が出たり出なかつたり悩まされてしまった。とどのつまり「本の整理」を忘れいてさらには「部屋全体の掃除」を忘れてしまつていた。


 猛暑と発疹との二週間にわたる格闘の末ようやくこれを撃退。病中、患部が痒く何もせずボーツとしていると、こりやあいかんとばかりに家事の手伝いにゆく。すると私の中途半端な働きぶりに両者きまづくなり、手伝いをやめて本を読む。集中できない。といった繰り返しが続いた。一時は眼が白濁しこれは花柳病かもしれぬと覚悟したが、覚悟しようにもこちらには思い当たる節がない。


 十日後、淡い紅色の発疹ができ、二十年ぶりに医学書を開き、発疹チフスかトラコーマかもしねぬと思う。トラコーマは伝染性結膜炎、慢性化すると混濁視力障害か慢性涙嚢炎を引き起こすという。上記のような狂騒劇を繰り返し、最終的に、一昨日、大きな10センチくらいの南京虫が発見され、後は普段来ている服が2日目に入つていることを思い出し洗濯に出し、2ヶ月半におよぶ闘争の末、動かずにはいられない疹みがようやく止まりました。