薄羽カゲロウ日記(師走四日)

西日本旅客鉄道京都線のサントリー山崎蒸溜所のある欝蒼たる疎林を抜けるとそこは京都駅の摩天楼の広いアーチが遥か上の天井に拡がっていた。地下鉄四条駅を降り、長州藩士と新選組の斬り合いがあった池田屋史蹟を訪ねるとそこはパチンコ屋だった。おおよそ…

薄羽カゲロウ日記 (神無月三十一日)

「わが南京虫闘争」とでもいいましようか、原因がはつきりとしない発疹やアレルギーと思われる病気の要因が、ようやく南京虫によるものではないか、とつきとめた。医学的知識が皆無にも関わらず、何者かの声に導かれるように対処方法ならびにその病名とおぼ…

薄羽カゲロウ日記(葉月二十二日)

午前三時三十分起床。昔の東京での出来事を時系列的に追つてみる。 ニ〇〇〇年(平成十二年)四月頃、新宿西口で浮浪者が強制排除されるのをテレビで鑑た。 新宿中央公園に住む人々を軽蔑してはならない「森の哲人さん」と呼びましよう、と友人に教えられ、…

薄羽カゲロウ日記(葉月五日)

現代における小説の意義のひとつとして、生活のなかでさまざまな奇妙な現象が起こり始めた時、その現状をつまびやかにして皆に問い掛けてみる手段という役割があらたに加わつたようにも思います。 私も京都七条で生まれて初めて気絶というものを経験してから…

薄羽カゲロウ日記(睦月二十一日)

「人間だつたらよかつたのにね」 農村に住まう農家の年老いた夫婦らしき旦那が、一人息子を都会の会社にやるための代わりの働き手として大きなホルスタインの牛を会社からもらい、牛に対してこう呟く。平成の初期に大賞をとつたコマーシャルですが、ここには…

薄羽カゲロウ日記(睦月二十日)

平日に普段の服装で出歩いても違和感がなくなつてきました。 8年前ですが、会社から休暇をもらつて岡山を訪れ、商店街を歩いていると、私と同年代の人は当然のように仕事で背広姿で歩いている。普段の服装で歩いているのは若い学生風の男か主婦か六十過ぎた…

薄羽カゲロウ日記(睦月十九日)

午前3:00起床。午前9:30松井山手行の普通列車に乗り、三ノ宮駅に(往復800円也)。今日は月に一度の本の買い出しに出掛けました。最近、伊藤仁斎の朱子学における「義」とは、「為すべき所を為し、為すべからざる所を為さぬ」という意味であると…

薄羽カゲロウ日記(師走二十二日)

あくまでも仮説なのですが、人間年をとつてくると身近なものごとから先に忘れていくものではないでしようか。私は七年前、六歳上の係長と「三十五歳記憶力限界説は本当か嘘か」で言い争つたことがあります。私の見解としては、人間三十五になると子供が思春…

薄羽カゲロウ日記(長月五日)

ワタシは二十年前に一度だけ、三箇月ほど頭の中に何とも形容しがたい靄(もや)がこびり付き、日常のいとなみ、普段はなにも感じなかつた雑事をおこなうことも億劫になり、もつとも酷いときには動くことさえも厭(いと)わしく思うことがございました。この…

薄羽カゲロウ日記(長月三日)

午前2:30起床。テレビを鑑ないせいか昨日は午後8:30に寝る。夜が明けるまで、純文学とよばれる書物を読みこむ。7年前でしようか、眠れずに先のことを考えても仕方がないと一度買つてみたかつたセロハン付きの「芥川賞全集(十九巻)」を思い切つて…

薄羽カゲロウ日記(葉月二十一日)

午前5:00起床。午前7:00朝食を摂る。本日も読書に没頭するつもりです。これは少年期の頃からの体験ですが、なぜか夏に暑さをこらえて読んだ本は生涯、忘れがたいものになるからです。 明朝、お亡くなりになられた松原泰道先生による「無常無我」のお…

薄羽カゲロウ日記(葉月七日)

午前5:00起床。午前7:00朝食を摂る。本日はひたすら読書に没頭。「死に至る病とは、生きることも死ぬこともできない状態である」という哲学の大御所木田元先生の著書に掲載されたきるキルケゴールの言葉に激しく反応する。 三十路に入り、嫁も子供も…

薄羽カゲロウ日記(文月十五日)

午前4:00起床。午前7:00、京都行の普通に乗り神戸駅で降りる(応復700円也)。もう、神戸に宮崎辰雄知事のもと神戸株式会社と呼ばれた頃の昔日の面影はありません。阪神大震災で地盤が崩壊し多数の死傷者が出て、大阪に関西新空港が出来てからは…

薄羽カゲロウ日記(水無月ニ十七日)

午前8:00起床。本日は河野義行氏の冤罪事件発生から十五周年の日だという。午前8:30新快速□□行の新快速列車に乗る(190円也)。□□で降り、午前9:30□□□□図書館の自習室南で「静止した時間」の構想を練る。「兵庫県歴史の謎」の□□編を複写(1…

薄羽カゲロウ日記(水無月ニ十一日)

午前4:00起床。午前9:00、西日本旅客鉄道の□□□□行の普通列車に乗る。□□□で降り古本屋□□□□書店に(400円也)。宮城谷昌光氏の『三国志』(二巻から六巻)および大前研一氏、田坂広志氏の三、四年前の著書を合計九冊「落訂箇所がなく、汚れや書き込…

薄羽カゲロウ日記(水無月十四日)

本日、□□□駅近くの交番の横に「痴漢被害相談所」と墨で黒々と大書された木製の大きな看板を見て一言、「ナンパつて昔ありましたけど、あれアカンのですか?」 地方につとめている頃、私は三十一歳だつたのですが、会社の同僚は高校時代の学友、あるいはニ十…

薄羽カゲロウ日記(水無月十三日)

午前7:00起床。午前7:30朝食を摂る。午後10:00西日本旅客鉄道快速と阪急快速に乗り□□に(670円也)。 三月にI先生に「せめて、君の成果物を見せてくれ」と言われたので、昨夜推敲に推敲を重ね最後の手書きの原稿を、と思つたが、細部の細部…

薄羽カゲロウ日記(水無月十日)

奇妙な事象が起こつた時、既に家族が心配している、と考えてください。私も考えてみれば、実に不思議な事が多々起こりました。ニ〇〇三年(平成十五年)快速を降りて、昔を懐かしんである駅に二十年ぶりに降り立ちました。昔は何も無かった筈の駅前のバスの…

薄羽カゲロウ日記(水無月二日)

本日は、昔の剣道の資格の取り方を開示したいと思います。まず、(一. 剣道に必要な防具および衣類、(二. 剣道の練習の仕方、(三. 剣道の級の取り方(旧制度)、(四. 剣道の段の取り方(旧制度、風聞)。 私は途中で剣道を辞めましたので、ほとんどその道…

薄羽カゲロウ日記(皐月一日)

午前5:30起床。午前7:30、朝食を摂る。午前8:35分、NHK「生活ホツトモーニング」に佐藤愛子女史が出演。「際限のない善意には何者をもかなわない」と語られておられました。ニ〇〇〇年(平成十二年)『人生の落弟坊主』(日本エツセイストク…

薄羽カゲロウ日記(卯月二十六日)

午前7:00起床。午前8:30、□□行の新快速に乗る。背広等を着た老若男女が一杯。昔、先輩と「45分間、新快速に乗ることが辛い」と話していたことを思い出す。「人が過剰なので人を辞めさせることを暗黙裡に助言する役割」があると言うので、この不況…

薄羽カゲロウ日記(弥生二十九日)

午前9:00起床。2時間半、腹と尻にたまつた脂肪分を追い出すために歩いて午前11:30□□県立図書館に行く。「熊沢蕃山」を読む。先日購入した「明治思想史」(高坂正顕、源了圓著:燈影舎)の第5章に載つているということなので図書館に返却。蕃山の思…

薄羽カゲロウ日記(弥生二十七日)

午前9:00起床。午前10:00□□市立図書館に行く(660円也)途中、写真屋に立ち寄り学生時代の写真を二人分焼き増ししてもらうよう頼む(1,600円也)夏合宿に列車で飛騨高山に。二日目の午前中、自由時間に自動車で免許とりたてのY氏、先輩のI…

薄羽カゲロウ日記(弥生二十四日)

午前9:00起床。午前8時バスと列車を乗り継いで街に出て病院に(410円也)採血の結果、脂肪分(コレステロール)値は高いが異常はないという。鬱状態の具合も軽微なものと診断され、喜色満面。午後10時、□□□□銀行でインターネット・バンキングと手数…

薄羽カゲロウ日記(弥生一日)

午前8:00起床。朝食を摂り久しぶりにしばし庭を逍遥す。高野山に行った帰路、父が秘かに高野槇の苗をビニールに入れて持ち帰った(条例違反になるのかもしれません?)成長が早い筈の高野槇だが日陰に植えたせいか生育が遅い。貴重な種なので枯れてはいない…

薄羽カゲロウ日記(如月二十八日)

午前11:00起床。朝食と昼食を一階の台所で摂る。 小此木啓吾先生の「困った人たちの精神分析」を読む。昔、哲学科に三十歳で入学してきた先輩が、同病相哀れむといった観であるヴィデオを貸してくれました。その作品の主人公は、躁鬱の激しい精神病患者で、…

薄羽カゲロウ日記(如月二十七日)

午前5:00「静止した時間」第10章を書き終える。睡眠。午前11:00起床。朝食を二階で食べ、午前12:00一階の台所でTVを鑑ながら昼食を摂る。 午後7:30 NHKの「クローズアップ現代」の「“おくりびと”が問う生と死」を鑑る。久しぶりに中沢新一氏の姿を拝見し…

薄羽カゲロウ日記(如月二十五日)

昨日、午後7:00帰宅。昏睡。午前10:00起床、部屋に置かれた一椀の飯と味噌汁を布団の中で食べる。 野間宏氏の「歎意抄」。最後の章の解説は少し弛緩した感じ。私は満足できない。昨年から一年半、宮仕えから離れた気楽さがあるが、何か生きる切迫感がない。 …